-流体画像情報を数学的処理で文字列化する手法の開発-

坂上貴之 理学研究科教授と横山知郎 京都教育大学教育学部准教授は、平面における非圧縮流れの全パターンを、数学(幾何学)の一分野であるトポロジーを用いて完全に分類し、各パターンに固有の文字列表現(極大語表現・正規表現)を割り当てる手法を開発しました。この文字列表現を用いれば、さまざまな流れのパターンの複雑な画像情報を、コンピュータ上で扱いやすい文字列情報に変換できます。たとえて言うなら、生物をDNAの塩基配列で表現するようなものです。

 

本研究成果は英国の科学雑誌「Proceedings of Royal Society A」および米国の科学雑誌「Physica D」に掲載されました。

研究者からのコメント

私たちは科学技術振興機構(JST)の研究プロジェクトCRESTで数学と流体運動を取り扱う他の分野の協働研究をおこなってきました。その中でわかってきたことは、流体運動は私たちの身の回りにあるものなのに、その流れの様子を曖昧さなく言葉として伝える手段がないということでした。お互いに共通の流れの様子(写真や図など)をみて「こういう流れ」の「こういう」という部分を正確に表現することが目的です。この語表現の理論は三次元の流れにはできないなどまだ改良の余地はありますが、二次元の流れであれば数学的な正確さと厳密さを背景にしてかなり正確に流れの状況を伝えられると考えています。

概要

本研究では、数学の持つ論理的厳密性、抽象性、普遍性という特質を活かして、こうした「流れ」パターンの画像情報を、幾何学の一分野である「トポロジー」により完全に分類し、それに対して固有の文字列を与える手法を開発しました。この手法は流体に関わる様々な場面で、幅広く応用できます。まずなによりも、複雑な流れパターンの大量の画像データを、わずかな文字列データへと変換することにより、情報の効率的な圧縮ができます。それによりコンピュータを使った解析が容易になり、もちろんビッグデータとして活用する時の効率も上がります。

 

また、医学・工学・環境・生命などの多く分野で今まで蓄積された、流れのパターン画像に関わる「経験知」を、誰もが理解できる「言葉」として表現することができるようになります。それにより、たとえば運輸や電力などの社会インフラの最適化設計において、あらかじめ「最適な流れ状態」をこの手法により文字列化し、そこに至る最適化経路を事前に把握しておけば、経験と勘に基づいた試行錯誤に頼らずともよくなり、設計が大幅に効率化されます。あるいは医療における病変診断への応用です。エコー検査など心臓や血液の流れパターン画像を用いた診断時に、専門医が経験的に着目してきた特定の部分をこの手法による文字列化により抽出できれば、他の医師・看護師や患者にも利用可能な情報として普遍化・共有することができるでしょう。

流れの極大語表現と正規表現の例:(左)数値シミュレーション結果
(中央)シミュレーションから抽出された流れパターン
(右)パターンの極大語表現(上)と正規表現(下)